為相一年豎子不戲狎斑白不提挈僮子不犁畔
鄭相に為って一年、子供はあなどりからかわなくなり、初老は約束を断ち切らず、若者は、叛逆(はんぎゃく)におよばなくなった。
二年市不豫賈三年門不夜關道不拾遺
二年すると、市(いち)では掛買いをしなくなった。三年して、門は夜の鍵(かぎ)をかけず、道で人の残したものを拾(ひろ)わなくなった。
四年田器不歸五年士無尺籍喪期不令而治
四年して、耕作の道具は持ち帰らなくなった。五年して、士は尺籍が無くなり、喪期は令(れい)さなくても治(おさ)まった。
治鄭二十六年而死丁壯號哭老人兒啼
鄭を治(おさ)めて二十六年にして死に、気力盛んな男子は大声をあげて嘆(なげ)き悲しみ、老人、子供は啼(な)いて、
曰子產去我死乎民將安歸
曰く、「子産は我らを置き去りにして死んでしまったのか。民はまさにいずこに帰(き)すればよいのだろうか」と。
公儀休者魯博士也以高弟為魯相
公儀休という者は魯の博士である。優等で及第(きゅうだい)するを以って魯相と為った。
奉法循理無所變更百官自正
法を奉(たてまつ)り、理(り)にしたがい、変更(へんこう)した所無く、百官は自ずから正(ただ)された。
使食祿者不得與下民爭利受大者不得取小
禄(ろく)を食(は)む者をして、下々の民と利(り)を争うことを得さしめず、多くをさずかる者は、
わずかなものを取ることを得さしめなかった。
客有遺相魚者相不受
客に、魯相公儀休に魚(さかな)を贈(おく)る者が有り、魯相公儀休は受け取らなかった。
客曰聞君嗜魚遺君魚何故不受也
客曰く、「君は魚(さかな)を好んで食べると聞いたので、君に魚(さかな)を贈ろうとしたのですが、何故(なぜ)受け取らないのですか?」と。
相曰以嗜魚故不受也
魯相公儀休曰く、「魚(さかな)を好んで食べるのを以ってする故(ゆえ)に、受け取らないのです。
今為相能自給魚
今、魯相と為って、魚(さかな)を自給することができるのに、
今受魚而免誰復給我魚者吾故不受也
今、魚(さかな)を受け取って魯相を免(めん)ぜられれば、誰がまた(魯相でもない)我(われ)に魚(さかな)を給(きゅう)するだろうか。吾(われ)は故(ゆえ)に受け取らないのである」と。
食茹而美拔其園葵而棄之
茹(ゆ)でて食べて美味しいと、その園の葵(食用にする草名)を抜いてこれを棄(す)て、
見其家織布好而疾出其家婦燔其機
その家の織物の布が好(よ)いのを見ると、しこうして、いそいでその家の婦人を出し、その機(はた)を焼き、
云欲令農士工女安所讎其貨乎
云(い)った、「男子に耕させ、女子に機織(はたお)りをさせることを欲しているのに、いずこがその売るに仇(あだ)するところだろうか」と。
鄭相に為って一年、子供はあなどりからかわなくなり、初老は約束を断ち切らず、若者は、叛逆(はんぎゃく)におよばなくなった。
二年市不豫賈三年門不夜關道不拾遺
二年すると、市(いち)では掛買いをしなくなった。三年して、門は夜の鍵(かぎ)をかけず、道で人の残したものを拾(ひろ)わなくなった。
四年田器不歸五年士無尺籍喪期不令而治
四年して、耕作の道具は持ち帰らなくなった。五年して、士は尺籍が無くなり、喪期は令(れい)さなくても治(おさ)まった。
治鄭二十六年而死丁壯號哭老人兒啼
鄭を治(おさ)めて二十六年にして死に、気力盛んな男子は大声をあげて嘆(なげ)き悲しみ、老人、子供は啼(な)いて、
曰子產去我死乎民將安歸
曰く、「子産は我らを置き去りにして死んでしまったのか。民はまさにいずこに帰(き)すればよいのだろうか」と。
公儀休者魯博士也以高弟為魯相
公儀休という者は魯の博士である。優等で及第(きゅうだい)するを以って魯相と為った。
奉法循理無所變更百官自正
法を奉(たてまつ)り、理(り)にしたがい、変更(へんこう)した所無く、百官は自ずから正(ただ)された。
使食祿者不得與下民爭利受大者不得取小
禄(ろく)を食(は)む者をして、下々の民と利(り)を争うことを得さしめず、多くをさずかる者は、
わずかなものを取ることを得さしめなかった。
客有遺相魚者相不受
客に、魯相公儀休に魚(さかな)を贈(おく)る者が有り、魯相公儀休は受け取らなかった。
客曰聞君嗜魚遺君魚何故不受也
客曰く、「君は魚(さかな)を好んで食べると聞いたので、君に魚(さかな)を贈ろうとしたのですが、何故(なぜ)受け取らないのですか?」と。
相曰以嗜魚故不受也
魯相公儀休曰く、「魚(さかな)を好んで食べるのを以ってする故(ゆえ)に、受け取らないのです。
今為相能自給魚
今、魯相と為って、魚(さかな)を自給することができるのに、
今受魚而免誰復給我魚者吾故不受也
今、魚(さかな)を受け取って魯相を免(めん)ぜられれば、誰がまた(魯相でもない)我(われ)に魚(さかな)を給(きゅう)するだろうか。吾(われ)は故(ゆえ)に受け取らないのである」と。
食茹而美拔其園葵而棄之
茹(ゆ)でて食べて美味しいと、その園の葵(食用にする草名)を抜いてこれを棄(す)て、
見其家織布好而疾出其家婦燔其機
その家の織物の布が好(よ)いのを見ると、しこうして、いそいでその家の婦人を出し、その機(はた)を焼き、
云欲令農士工女安所讎其貨乎
云(い)った、「男子に耕させ、女子に機織(はたお)りをさせることを欲しているのに、いずこがその売るに仇(あだ)するところだろうか」と。