是時任安為北軍使者護軍太子立車北軍南門外
この時、任安は北軍使者護軍と為っており、漢太子劉拠が車を北軍の南門の外に立て、
召任安與節令發兵
漢北軍使者護軍任安を召(め)しよせて、旗印(はたじるし)を与(あた)えて兵を発さしめた。
安拜受節入閉門不出武帝聞之
漢北軍使者護軍任安は拝礼して旗印(はたじるし)を授(さず)かり、入って門を閉(し)めて出なかった。武帝はこれを聞いて、
以為任安為詳邪不傅事何也
任安が偽(いつわ)りを為そうとしているのか、事(こと)を伝(つた)えないのはどうしてなのか、と思った。
任安笞辱北軍錢官小吏小吏上書言之
漢北軍使者護軍任安は北軍銭官の小役人をむち打って辱(はずかし)めた。小役人は上書して、これを言った、
以為受太子節言幸與我其鮮好者
(仁安は)漢太子劉拠の旗印(はたじるし)を授(さず)かって、幸いにも我(われ)にすばらしく好(よ)いものを与(あた)えてくださいましたと言っていました、と。
書上聞武帝曰是老吏也見兵事起
書状が申し上げられると、漢孝武帝劉徹曰く、「これは老吏で、兵事(へいじ)が起こったのを目の当たりにして、
欲坐觀成敗見勝者欲合從之有兩心
座(ざ)して成敗(せいばい)を観察しようと欲し、勝者を見てこれに合従しようと欲しているのであって、二心(にしん)が有る。
安有當死之罪甚眾吾常活之
仁安は死の罪に当たるものが甚(はなは)だ多く有ったが、吾(われ)はいつもこれを活(い)かしていた。
今懷詐有不忠之心
今、偽(いつわ)りを懐(いだ)くは不忠の心が有る」と。
下安吏誅死
仁安を役人に下(くだ)して誅死させた。
夫月滿則虧物盛則衰天地之常也
それ、月(つき)が満(み)ちればすなわち欠(か)け、物が盛んになればすなわち衰(おとろ)えるは、天地の常(つね)である。
知進而不知退久乘富貴禍積為祟
進むを知って、退(しりぞ)くを知らず、久(ひさ)しく富貴に乗れば、禍(わざわい)が積(つ)もって祟(たた)りを為す。
故范蠡之去越辭不受官位名傳後世
故(ゆえ)に范蠡(人名)は越(国名)を去(さ)って、辞(じ)して官位を受けず、名声は後世に伝わって、
萬歲不忘豈可及哉後進者慎戒之
万年も忘(わす)れられない。どうして及(およ)ぶことができるだろうかな。後進者(こうしんしゃ)は慎(つつし)んでこれを誡(いまし)めよ」と。
今日で史記 田叔列伝は終わりです。明日からは史記 扁鵲倉公列伝に入ります。
この時、任安は北軍使者護軍と為っており、漢太子劉拠が車を北軍の南門の外に立て、
召任安與節令發兵
漢北軍使者護軍任安を召(め)しよせて、旗印(はたじるし)を与(あた)えて兵を発さしめた。
安拜受節入閉門不出武帝聞之
漢北軍使者護軍任安は拝礼して旗印(はたじるし)を授(さず)かり、入って門を閉(し)めて出なかった。武帝はこれを聞いて、
以為任安為詳邪不傅事何也
任安が偽(いつわ)りを為そうとしているのか、事(こと)を伝(つた)えないのはどうしてなのか、と思った。
任安笞辱北軍錢官小吏小吏上書言之
漢北軍使者護軍任安は北軍銭官の小役人をむち打って辱(はずかし)めた。小役人は上書して、これを言った、
以為受太子節言幸與我其鮮好者
(仁安は)漢太子劉拠の旗印(はたじるし)を授(さず)かって、幸いにも我(われ)にすばらしく好(よ)いものを与(あた)えてくださいましたと言っていました、と。
書上聞武帝曰是老吏也見兵事起
書状が申し上げられると、漢孝武帝劉徹曰く、「これは老吏で、兵事(へいじ)が起こったのを目の当たりにして、
欲坐觀成敗見勝者欲合從之有兩心
座(ざ)して成敗(せいばい)を観察しようと欲し、勝者を見てこれに合従しようと欲しているのであって、二心(にしん)が有る。
安有當死之罪甚眾吾常活之
仁安は死の罪に当たるものが甚(はなは)だ多く有ったが、吾(われ)はいつもこれを活(い)かしていた。
今懷詐有不忠之心
今、偽(いつわ)りを懐(いだ)くは不忠の心が有る」と。
下安吏誅死
仁安を役人に下(くだ)して誅死させた。
夫月滿則虧物盛則衰天地之常也
それ、月(つき)が満(み)ちればすなわち欠(か)け、物が盛んになればすなわち衰(おとろ)えるは、天地の常(つね)である。
知進而不知退久乘富貴禍積為祟
進むを知って、退(しりぞ)くを知らず、久(ひさ)しく富貴に乗れば、禍(わざわい)が積(つ)もって祟(たた)りを為す。
故范蠡之去越辭不受官位名傳後世
故(ゆえ)に范蠡(人名)は越(国名)を去(さ)って、辞(じ)して官位を受けず、名声は後世に伝わって、
萬歲不忘豈可及哉後進者慎戒之
万年も忘(わす)れられない。どうして及(およ)ぶことができるだろうかな。後進者(こうしんしゃ)は慎(つつし)んでこれを誡(いまし)めよ」と。
今日で史記 田叔列伝は終わりです。明日からは史記 扁鵲倉公列伝に入ります。