已縛之上馬望匈奴有數千騎見廣
すでにこれを縛(しば)り馬に上(あ)げたとき、匈奴の数千騎が有るのを望(のぞ)み見た。(匈奴は)辺郡太守李広を見て、
以為誘騎皆驚上山陳
敵を誘(さそ)いだすための騎兵だと思い、皆(みな)驚いて、山に上(あ)がりしき並(なら)んだ。
廣之百騎皆大恐欲馳還走
辺郡太守李広の百騎は皆(みな)大いに恐れ、馳(は)せ還(かえ)り逃げることを欲した。
廣曰吾去大軍數十里今如此以百騎走匈奴追射我立盡
辺郡太守李広曰く、「吾(われ)は大軍と離れること数十里(一里150m換算で約3km~)、今、もしここに百騎を以って逃げれば、匈奴は追いかけて我らを射(い)て立ちどころに尽くされるだろう。
今我留匈奴必以我為大軍[之]誘(之)必不敢擊我
今、我らが留(とど)まれば、匈奴は必ず我らを以って大軍の誘騎(敵を誘い出すための騎兵)だと思い、必ず、敢(あ)えて我らを撃たないだろう」と。
廣令諸騎曰前前未到匈奴陳二里所止令曰
辺郡太守李広は諸(もろもろ)の騎兵に令して曰く、「前方へ」と。前に未(ま)だ匈奴の陣立てに到(いた)らないうちの二里(一里150m換算で約300m)の所に進み、止まらせ、令して曰く、
皆下馬解鞍其騎曰虜多且近即有急柰何
「皆(みな)馬から下(お)りて鞍(くら)を解(と)けよ」と。その騎兵曰く、「敵(てき)が多くまさに近(ちか)く、すなわち急があったら、どうしたらよいですか?」と。
廣曰彼虜以我為走今皆解鞍以示不走用堅其意
辺郡太守李広曰く、「彼(か)の敵(てき)は我らを以って逃げると思っているが、今、皆(みな)
鞍(くら)を解(と)いて逃げないことを示すを以ってすれば、その意を手堅(てがた)く用いるだろう」と。
於是胡騎遂不敢擊有白馬將出護其兵
ここに於いて匈奴の騎兵は遂(つい)に敢(あ)えて撃たなかった。白馬の将軍がおりその兵を護(まも)って出た。
李廣上馬與十餘騎奔射殺胡白馬將
辺郡太守李広は馬に上(あ)がり、十余騎とともに勢いよく走って匈奴の白馬将を射殺し、
而復還至其騎中解鞍令士皆縱馬臥
しこうして、ふたたび還(かえ)してその騎中に至り、鞍(くら)を解(と)いて、士に令して皆(みな)馬を放(はな)ちて休ませた。
是時會暮胡兵終怪之不敢擊
この時日が暮(く)れる頃で、匈奴兵は終(しま)いまでこれを怪(あや)しみ、敢(あ)えて撃たなかった。
夜半時,胡兵亦以為漢有伏軍於旁欲夜取之,胡皆引兵而去。
夜半(やはん)時、匈奴兵もまた漢が伏軍(ふくぐん)を傍(かたわ)らに有(ゆう)し夜にこれを取ろうと欲していると思い、匈奴は皆(みな)兵を引いて去(さ)った。
平旦李廣乃歸其大軍大軍不知廣所之故弗從
明け方、辺郡太守李広はそこでその大軍に帰(かえ)った。大軍は辺郡太守李広の行った所を知らなかったので、故(ゆえ)に従わなかったのである。
すでにこれを縛(しば)り馬に上(あ)げたとき、匈奴の数千騎が有るのを望(のぞ)み見た。(匈奴は)辺郡太守李広を見て、
以為誘騎皆驚上山陳
敵を誘(さそ)いだすための騎兵だと思い、皆(みな)驚いて、山に上(あ)がりしき並(なら)んだ。
廣之百騎皆大恐欲馳還走
辺郡太守李広の百騎は皆(みな)大いに恐れ、馳(は)せ還(かえ)り逃げることを欲した。
廣曰吾去大軍數十里今如此以百騎走匈奴追射我立盡
辺郡太守李広曰く、「吾(われ)は大軍と離れること数十里(一里150m換算で約3km~)、今、もしここに百騎を以って逃げれば、匈奴は追いかけて我らを射(い)て立ちどころに尽くされるだろう。
今我留匈奴必以我為大軍[之]誘(之)必不敢擊我
今、我らが留(とど)まれば、匈奴は必ず我らを以って大軍の誘騎(敵を誘い出すための騎兵)だと思い、必ず、敢(あ)えて我らを撃たないだろう」と。
廣令諸騎曰前前未到匈奴陳二里所止令曰
辺郡太守李広は諸(もろもろ)の騎兵に令して曰く、「前方へ」と。前に未(ま)だ匈奴の陣立てに到(いた)らないうちの二里(一里150m換算で約300m)の所に進み、止まらせ、令して曰く、
皆下馬解鞍其騎曰虜多且近即有急柰何
「皆(みな)馬から下(お)りて鞍(くら)を解(と)けよ」と。その騎兵曰く、「敵(てき)が多くまさに近(ちか)く、すなわち急があったら、どうしたらよいですか?」と。
廣曰彼虜以我為走今皆解鞍以示不走用堅其意
辺郡太守李広曰く、「彼(か)の敵(てき)は我らを以って逃げると思っているが、今、皆(みな)
鞍(くら)を解(と)いて逃げないことを示すを以ってすれば、その意を手堅(てがた)く用いるだろう」と。
於是胡騎遂不敢擊有白馬將出護其兵
ここに於いて匈奴の騎兵は遂(つい)に敢(あ)えて撃たなかった。白馬の将軍がおりその兵を護(まも)って出た。
李廣上馬與十餘騎奔射殺胡白馬將
辺郡太守李広は馬に上(あ)がり、十余騎とともに勢いよく走って匈奴の白馬将を射殺し、
而復還至其騎中解鞍令士皆縱馬臥
しこうして、ふたたび還(かえ)してその騎中に至り、鞍(くら)を解(と)いて、士に令して皆(みな)馬を放(はな)ちて休ませた。
是時會暮胡兵終怪之不敢擊
この時日が暮(く)れる頃で、匈奴兵は終(しま)いまでこれを怪(あや)しみ、敢(あ)えて撃たなかった。
夜半時,胡兵亦以為漢有伏軍於旁欲夜取之,胡皆引兵而去。
夜半(やはん)時、匈奴兵もまた漢が伏軍(ふくぐん)を傍(かたわ)らに有(ゆう)し夜にこれを取ろうと欲していると思い、匈奴は皆(みな)兵を引いて去(さ)った。
平旦李廣乃歸其大軍大軍不知廣所之故弗從
明け方、辺郡太守李広はそこでその大軍に帰(かえ)った。大軍は辺郡太守李広の行った所を知らなかったので、故(ゆえ)に従わなかったのである。