古布衣之俠靡得而聞已
古(いにしえ)の官位のない人の俠は、聞くことがすでにできない。
近世延陵孟嘗春申平原信陵之徒
近世の延陵君、孟嘗君、春申君、平原君、信陵君の仲間たちは、
皆因王者親屬藉於有土卿相之富厚
皆(みな)王者の親属に因(よ)り、土地を有する卿相の富厚(富裕)に於いて籍(せき)し、
招天下賢者顯名諸侯不可謂不賢者矣
天下の賢者を招(まね)き、名を諸侯に顕(あきら)かにして、賢くない者と謂(い)うべきではない。
比如順風而呼聲非加疾其埶激也
たとえば順風(じゅんぷう)にして叫(さけ)べば、声は速さが加わるのではなく、その勢いがはげしくなるのである。
至如閭巷之俠修行砥名聲施於天下
民間の俠の如(ごと)くに至りては、行いを修め名を砥(と)ぎ、名声は天下に施(ほどこ)され、
莫不稱賢是為難耳然儒墨皆排擯不載
賢と称(たた)えられないものはなく、ここに耳に難(かた)く為った。然(しか)るに儒、墨は皆(みな)排(はい)ししりぞけて文書に載(の)せなかった。
自秦以前匹夫之俠湮滅不見余甚恨之
秦より以前の匹夫の俠はあとかたなく消えて見えず、わたしは甚(はなは)だこれを恨(うら)む。
以余所聞漢興有朱家田仲王公劇孟
わたしが聞いたところを以ってすると、漢が興(おこ)って、朱家、田仲、王公、劇孟
郭解之徒雖時捍當世之文罔
郭解の仲間を有(ゆう)し、当世の法の網(あみ)に時にふせがれたと雖(いえど)も、
然其私義廉退讓有足稱者
然(しか)るのそのひそかな義(ぎ)は廉潔(れんけつ)で、退譲(たいじょう へりくだってゆずること)で、称(たた)えるに足(た)るものが有る。
名不虛立士不虛附至如朋黨宗彊比周
名はなにもなくして立たず、士はなにもなくして附(つ)きしたがわない。朋黨(なかま)、宗彊(強い宗族)が比周(私心なく人と親しむ)するが如(ごと)くに至り、
設財役貧豪暴侵淩孤弱恣欲自快游俠亦丑之
財産を設(もう)け、貧を使役(しえき)し、 豪暴は孤弱を侵(おか)しあなどり、おもうままに欲して自らを快(こころ)よくさせ、游俠もまたこれをきらった。
余悲世俗不察其意而猥以朱家
わたしは世俗がその意(い)を察せず、しこうして、むやみに、朱家、
郭解等令與暴豪之徒同類而共笑之也
郭解らを以って、暴豪の仲間とともに類(たぐい)を同じくさせて、共(とも)にこれを笑ったことを悲しむのである。
古(いにしえ)の官位のない人の俠は、聞くことがすでにできない。
近世延陵孟嘗春申平原信陵之徒
近世の延陵君、孟嘗君、春申君、平原君、信陵君の仲間たちは、
皆因王者親屬藉於有土卿相之富厚
皆(みな)王者の親属に因(よ)り、土地を有する卿相の富厚(富裕)に於いて籍(せき)し、
招天下賢者顯名諸侯不可謂不賢者矣
天下の賢者を招(まね)き、名を諸侯に顕(あきら)かにして、賢くない者と謂(い)うべきではない。
比如順風而呼聲非加疾其埶激也
たとえば順風(じゅんぷう)にして叫(さけ)べば、声は速さが加わるのではなく、その勢いがはげしくなるのである。
至如閭巷之俠修行砥名聲施於天下
民間の俠の如(ごと)くに至りては、行いを修め名を砥(と)ぎ、名声は天下に施(ほどこ)され、
莫不稱賢是為難耳然儒墨皆排擯不載
賢と称(たた)えられないものはなく、ここに耳に難(かた)く為った。然(しか)るに儒、墨は皆(みな)排(はい)ししりぞけて文書に載(の)せなかった。
自秦以前匹夫之俠湮滅不見余甚恨之
秦より以前の匹夫の俠はあとかたなく消えて見えず、わたしは甚(はなは)だこれを恨(うら)む。
以余所聞漢興有朱家田仲王公劇孟
わたしが聞いたところを以ってすると、漢が興(おこ)って、朱家、田仲、王公、劇孟
郭解之徒雖時捍當世之文罔
郭解の仲間を有(ゆう)し、当世の法の網(あみ)に時にふせがれたと雖(いえど)も、
然其私義廉退讓有足稱者
然(しか)るのそのひそかな義(ぎ)は廉潔(れんけつ)で、退譲(たいじょう へりくだってゆずること)で、称(たた)えるに足(た)るものが有る。
名不虛立士不虛附至如朋黨宗彊比周
名はなにもなくして立たず、士はなにもなくして附(つ)きしたがわない。朋黨(なかま)、宗彊(強い宗族)が比周(私心なく人と親しむ)するが如(ごと)くに至り、
設財役貧豪暴侵淩孤弱恣欲自快游俠亦丑之
財産を設(もう)け、貧を使役(しえき)し、 豪暴は孤弱を侵(おか)しあなどり、おもうままに欲して自らを快(こころ)よくさせ、游俠もまたこれをきらった。
余悲世俗不察其意而猥以朱家
わたしは世俗がその意(い)を察せず、しこうして、むやみに、朱家、
郭解等令與暴豪之徒同類而共笑之也
郭解らを以って、暴豪の仲間とともに類(たぐい)を同じくさせて、共(とも)にこれを笑ったことを悲しむのである。