何曰王計必欲東能用信
漢丞相蕭何曰く、「王(漢王劉邦)の計(はか)りごとが必ず東に進むことを欲し、韓信を用いることができれば、
信即留不能用信終亡耳王曰
韓信はすなわち留(とど)まり、用いることができなければ、韓信は終(つい)には逃げるだけです」と。漢王劉邦曰く、
吾為公以為將何曰雖為將
「吾(われ)はおまえの為に将軍と為すを以ってしよう」と。漢丞相蕭何曰く、「将軍に為ったと雖(いえど)も、
信必不留王曰以為大將
韓信はきっと留(とど)まらないでしょう」と。漢王劉邦曰く、「大将と為すを以ってしよう」と。
何曰幸甚於是王欲召信拜之
漢丞相蕭何曰く、「非常に幸せに思います」と。ここに於いて漢王劉邦は韓信を召してこれに官(大将)をさずけようとした。
何曰王素慢無禮今拜大將如呼小兒耳
漢丞相蕭何曰く、「王(漢王劉邦)は素(もと)よりいばり無礼(ぶれい)で、今、大将をさずけるに
小児を呼(よ)ぶが如(ごと)くのようだけでは、
此乃信所以去也王必欲拜之擇良日
これ、すなわち、韓信が去(さ)る理由であります。王(漢王劉邦)は必ずこれに官をさずけることを欲するならば、良い日を択(えら)び、
齋戒設壇場具禮乃可耳王許之
ものいみし、壇場を設(も)うけて、礼式を備(そな)えてこそ、すなわち可であるのみ」と。
漢王劉邦はこれを聞き入れた。
諸將皆喜人人各自以為得大將
諸(もろもろ)の将軍は皆(みな)喜んで、人々は各(おのおの)自(みずか)らが大将位を得られると思った。
至拜大將乃韓信也一軍皆驚
大将をさずけるに至ると、すなわち韓信であり、一様に軍は皆(みな)驚いた。
信拜禮畢上坐王曰丞相數言將軍
韓信の任命式が終わると、上座(じょうざ)した。漢王劉邦曰く、「丞相(蕭何)がたびたび将軍(韓信)を言上したが、
將軍何以教寡人計策信謝
将軍(韓信)は何ものを以ってわたしに計策を教(おし)えるのか」と。漢大将韓信は謝(しゃ)して、
因問王曰今東鄉爭權天下豈非項王邪
因(よ)りて漢王劉邦に問うた、曰く、「今、東面して天下に権力を争うは、どうして項王(西楚覇王項羽)で非(あら)ざるか?」と。
漢王曰然曰
漢王劉邦曰く、「然(しか)り」と。曰く、
大王自料勇悍仁彊孰與項王
「大王(漢王劉邦)は自(みずか)らをはかるに勇悍(ゆうかん)、仁強は項王(項羽)とどちらですか」と。
漢王默然良久曰不如也
漢王劉邦は黙然(もくぜん)とだまりこむことややしばらくして、曰く、「(項羽には)及(およ)ばない」と。
漢丞相蕭何曰く、「王(漢王劉邦)の計(はか)りごとが必ず東に進むことを欲し、韓信を用いることができれば、
信即留不能用信終亡耳王曰
韓信はすなわち留(とど)まり、用いることができなければ、韓信は終(つい)には逃げるだけです」と。漢王劉邦曰く、
吾為公以為將何曰雖為將
「吾(われ)はおまえの為に将軍と為すを以ってしよう」と。漢丞相蕭何曰く、「将軍に為ったと雖(いえど)も、
信必不留王曰以為大將
韓信はきっと留(とど)まらないでしょう」と。漢王劉邦曰く、「大将と為すを以ってしよう」と。
何曰幸甚於是王欲召信拜之
漢丞相蕭何曰く、「非常に幸せに思います」と。ここに於いて漢王劉邦は韓信を召してこれに官(大将)をさずけようとした。
何曰王素慢無禮今拜大將如呼小兒耳
漢丞相蕭何曰く、「王(漢王劉邦)は素(もと)よりいばり無礼(ぶれい)で、今、大将をさずけるに
小児を呼(よ)ぶが如(ごと)くのようだけでは、
此乃信所以去也王必欲拜之擇良日
これ、すなわち、韓信が去(さ)る理由であります。王(漢王劉邦)は必ずこれに官をさずけることを欲するならば、良い日を択(えら)び、
齋戒設壇場具禮乃可耳王許之
ものいみし、壇場を設(も)うけて、礼式を備(そな)えてこそ、すなわち可であるのみ」と。
漢王劉邦はこれを聞き入れた。
諸將皆喜人人各自以為得大將
諸(もろもろ)の将軍は皆(みな)喜んで、人々は各(おのおの)自(みずか)らが大将位を得られると思った。
至拜大將乃韓信也一軍皆驚
大将をさずけるに至ると、すなわち韓信であり、一様に軍は皆(みな)驚いた。
信拜禮畢上坐王曰丞相數言將軍
韓信の任命式が終わると、上座(じょうざ)した。漢王劉邦曰く、「丞相(蕭何)がたびたび将軍(韓信)を言上したが、
將軍何以教寡人計策信謝
将軍(韓信)は何ものを以ってわたしに計策を教(おし)えるのか」と。漢大将韓信は謝(しゃ)して、
因問王曰今東鄉爭權天下豈非項王邪
因(よ)りて漢王劉邦に問うた、曰く、「今、東面して天下に権力を争うは、どうして項王(西楚覇王項羽)で非(あら)ざるか?」と。
漢王曰然曰
漢王劉邦曰く、「然(しか)り」と。曰く、
大王自料勇悍仁彊孰與項王
「大王(漢王劉邦)は自(みずか)らをはかるに勇悍(ゆうかん)、仁強は項王(項羽)とどちらですか」と。
漢王默然良久曰不如也
漢王劉邦は黙然(もくぜん)とだまりこむことややしばらくして、曰く、「(項羽には)及(およ)ばない」と。