信再拜賀曰惟信亦為大王不如也
漢大将韓信は再拝してよろこんで曰く、「これ、わたしもまた大王(漢王劉邦)は及ばないと思います。
然臣嘗事之請言項王之為人也
然(しか)るにわたしは嘗(かつ)てこれに仕(つか)えたことがあり、項王(西楚覇王項籍(項羽))
の人と為りを言わせてください。
項王喑噁叱千人皆廢然不能任屬賢將
項王(西楚覇王項籍(項羽))は大声で叱(しか)ると 千人が皆(みな)拝(はい)する(廃=拝?)ほどで、然るに 賢い将軍に任属(まかせてたのむ)することができず、
此特匹夫之勇耳項王見人恭敬慈愛
これ、ただの匹夫(ひっぷ)の勇(ゆう)にすぎません。項王(西楚覇王項籍(項羽))は人に見(まみ)えるに、うやうやしくつつしみ、慈(いつく)しみ愛し、
言語嘔嘔人有疾病涕泣分食飲
言語は嘔嘔(くく)として慈愛のこもった声で話し、人に疾病(しっぺい)にかかったものが有れば、
涙を流して飲食を分(わ)けます。
至使人有功當封爵者印刓敝
しかし(至=而、又は且?)もし人に功績の爵を封ずるに当たる者が有れば、印が摩滅(まめつ)し印綬がぼろぼろになるほど、
忍不能予此所謂婦人之仁也
惜(お)しんで与(あた)えることができません。これ、所謂(いわゆる)婦人の仁(じん)であります。
項王雖霸天下而臣諸侯不居關中而都彭城
項王(西楚覇王項籍(項羽))は天下に覇(は)して諸侯を臣下としたと雖(いえど)も、関中に居住せずして彭城を都(みやこ)にしました。
有背義帝之約而以親愛王諸侯不平
また楚義帝熊心の約束に背(そむ)て、親愛(しんあい)を以って王、諸侯にするは公平ではありませんでした。
諸侯之見項王遷逐義帝置江南
諸侯は項王(西楚覇王項籍(項羽))が楚義帝熊心を追い払って遷(うつ)し江南に置いたのを見ると、
亦皆歸逐其主而自王善地項王所過無不殘滅者
また、皆(みな)帰ってその主(あるじ)を追い払って、自ら善(よ)い地で王になりました。項王(西楚覇王項籍(項羽))の立ち寄ったところで残滅(ざんめつ)されなかったものは無く、
天下多怨百姓不親附特劫於威彊耳
天下は怨(うら)み多く、百姓は親しく附(つ)き従わず、ただ威(い)の強さに怯(おぼ)えているだけです。
名雖為霸實失天下心故曰其彊易弱
名目は覇(は)を為したと雖(いえど)も、実質は天下の心を失(うしな)いました。故(ゆえ)に曰く、その強さは弱くなり易(やす)い、と。
今大王誠能反其道任天下武勇
今、大王(漢王劉邦)は誠(まこと)にその(項羽の)道に反(はん)することができれば、天下の武勇に任(まか)せて、
何所不誅以天下城邑封功臣何所不服
どこが誅(ちゅう)されないでしょうか。天下の城邑を以って功臣に封じて、どこが服(ふく)さないでしょうか。
以義兵從思東歸之士何所不散
正義のために戦ういくさを以って、東に帰ろうと思う士に従えさせれば、どこが散りじりにならないでしょうか。
漢大将韓信は再拝してよろこんで曰く、「これ、わたしもまた大王(漢王劉邦)は及ばないと思います。
然臣嘗事之請言項王之為人也
然(しか)るにわたしは嘗(かつ)てこれに仕(つか)えたことがあり、項王(西楚覇王項籍(項羽))
の人と為りを言わせてください。
項王喑噁叱千人皆廢然不能任屬賢將
項王(西楚覇王項籍(項羽))は大声で叱(しか)ると 千人が皆(みな)拝(はい)する(廃=拝?)ほどで、然るに 賢い将軍に任属(まかせてたのむ)することができず、
此特匹夫之勇耳項王見人恭敬慈愛
これ、ただの匹夫(ひっぷ)の勇(ゆう)にすぎません。項王(西楚覇王項籍(項羽))は人に見(まみ)えるに、うやうやしくつつしみ、慈(いつく)しみ愛し、
言語嘔嘔人有疾病涕泣分食飲
言語は嘔嘔(くく)として慈愛のこもった声で話し、人に疾病(しっぺい)にかかったものが有れば、
涙を流して飲食を分(わ)けます。
至使人有功當封爵者印刓敝
しかし(至=而、又は且?)もし人に功績の爵を封ずるに当たる者が有れば、印が摩滅(まめつ)し印綬がぼろぼろになるほど、
忍不能予此所謂婦人之仁也
惜(お)しんで与(あた)えることができません。これ、所謂(いわゆる)婦人の仁(じん)であります。
項王雖霸天下而臣諸侯不居關中而都彭城
項王(西楚覇王項籍(項羽))は天下に覇(は)して諸侯を臣下としたと雖(いえど)も、関中に居住せずして彭城を都(みやこ)にしました。
有背義帝之約而以親愛王諸侯不平
また楚義帝熊心の約束に背(そむ)て、親愛(しんあい)を以って王、諸侯にするは公平ではありませんでした。
諸侯之見項王遷逐義帝置江南
諸侯は項王(西楚覇王項籍(項羽))が楚義帝熊心を追い払って遷(うつ)し江南に置いたのを見ると、
亦皆歸逐其主而自王善地項王所過無不殘滅者
また、皆(みな)帰ってその主(あるじ)を追い払って、自ら善(よ)い地で王になりました。項王(西楚覇王項籍(項羽))の立ち寄ったところで残滅(ざんめつ)されなかったものは無く、
天下多怨百姓不親附特劫於威彊耳
天下は怨(うら)み多く、百姓は親しく附(つ)き従わず、ただ威(い)の強さに怯(おぼ)えているだけです。
名雖為霸實失天下心故曰其彊易弱
名目は覇(は)を為したと雖(いえど)も、実質は天下の心を失(うしな)いました。故(ゆえ)に曰く、その強さは弱くなり易(やす)い、と。
今大王誠能反其道任天下武勇
今、大王(漢王劉邦)は誠(まこと)にその(項羽の)道に反(はん)することができれば、天下の武勇に任(まか)せて、
何所不誅以天下城邑封功臣何所不服
どこが誅(ちゅう)されないでしょうか。天下の城邑を以って功臣に封じて、どこが服(ふく)さないでしょうか。
以義兵從思東歸之士何所不散
正義のために戦ういくさを以って、東に帰ろうと思う士に従えさせれば、どこが散りじりにならないでしょうか。