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使者載行出於泉陽之門

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使者載行出於泉陽之門

宋使者は(亀を)載(の)せて行き、泉陽の門を出た。

正晝無見風雨晦冥

真昼に見えるものが無くなり、風雨でくらやみになった。

雲蓋其上五采青黃雷雨并起風將而行

雲がその上を蓋(おお)って、雲の色は青、黄色をしており、雷雨がならび起こり、風が速く吹いていった。

入於端門見於東箱身如流水潤澤有光

端門に入り、東の沼(ぬま 箱(しょう)=沼(しょう)?)を見た。身(み)は流れる水の如(ごと)く、うるおって光沢が出た。

望見元王延頸而前三步而止縮頸而卻復其故處

宋元王を望み見て、頸(くび)を延(の)ばして前に進み、三歩で止まり、頸(くび)を縮(ちぢ)めてしりぞき、またその故(もと)の処(ところ)にもどった。

元王見而怪之問衛平曰龜見寡人延頸而前以何望也

宋元王は見てこれを不思議に思い、宋博士衛平に問うた、曰く、『亀がわたしを見て、頸(くび)を延(の)ばして前に進んだのは、何を以って望んだのか?

縮頸而復是何當也衛平對曰

頸(くび)を縮(ちぢ)めてまたもどったのは、これ何に当たるのか?』と。宋博士衛平は応(こた)えて曰く、

龜在患中而終昔囚王有義使人活之

『亀は患(うれ)いの中に在(あ)って夜通し囚(とら)われ、王に徳、義が有って、人をつかわしこれを活(い)かしました。

今延頸而前以當謝也縮頸而卻欲亟去也

今、頸(くび)を延(の)ばして前に進んだのは、まさに感謝するを以ってしたのであり、頸を縮(ちぢ)めて退却(たいきゃく)したのは、すみやかに去りたいと欲しているのです』と。

元王曰善哉神至如此乎不可久留

宋元王曰く、『善(よ)いかな。神がこの如(ごと)く至って、久しく留(とど)めるべきではない。

趣駕送龜勿令失期衛平對曰

馬車に趣(おもむ)いて亀を送り、約束を失わせることないように』と。宋博士衛平は応(こた)えて曰く、

龜者是天下之寶也先得此龜者為天子

『亀とはこれ天下の宝(たから)であり、先(さき)にこの亀を得た者は天子に為り、

且十言十當十戰十勝生於深淵長於黃土

まさに十、言って十、当(あ)たり、十、戦って、十勝ちます。深い淵(ふち)に生まれ、黄土で生長し、

知天之道明於上古游三千歲不出其域

天の道を知り、上古に明るく、巡(めぐ)り歩くこと三千年、その域を出ません。

安平靜正動不用力壽蔽天地莫知其極

平安(へいあん)静正、動いても力(ちから)を用いず、寿(ことぶき)は天地を蔽(おお)い、その極(きわ)まりを知るものはありません。

與物變化四時變色居而自匿伏而不食

物とともに変化し、四季には変色し、居(きょ)して自らを隠(かく)し、伏(ふ)せて食べません。

春倉夏黃秋白冬明於陰陽審於刑

春は青色、夏は黄色、秋は白色、冬は黒色になり、陰陽(いんよう)に明らかで、刑罰と徳に審(つまび)らかです。

先知利害察於禍福以言而當以戰而勝

先(さき)んじて利害(りがい)を知り、禍(わざわい)福(ふく)を察(さっ)し、言を以ってすれば当(あ)たり、戦いを以ってすれば勝ち、

王能寶之諸侯盡服王勿遣也以安社稷

王がこれを宝(たから)とすることができれば、諸侯はことごとく服(ふく)すことでしょう。王は送ることなかれ、社稷(しゃしょく)を安んじるを以ってしてください』と。

元王曰龜甚神靈降于上天陷於深淵

宋元王曰く、『亀は甚(はなは)だ神霊で上天から降ってきて、深い淵(ふち)にうずまった。

在患難中以我為賢厚而忠信故來告寡人

患(うれ)いの難(なん)の中に在(あ)って、我(われ)を以って賢者で、徳が厚(あつ)くて忠信であると為して、故(ゆえ)にわたしに告げに来たのだ。

寡人若不遣也是漁者也

わたしがもし送らなければ、これは漁者である。

漁者利其肉寡人貪其力下為不仁上為無

漁者はその肉に利(り)する。わたしはその力(ちから)を貪(むさぼ)り、下(した)は不仁と為り、上(うえ)は無徳と為る。

君臣無禮何從有福寡人不忍柰何勿遣

君臣(君主と臣下)に礼(れい)が無くなれば、どうして欲しいままに福(ふく)を有するだろうか。わたしは忍(しの)ばれない。送ることなかれとはいかに』と。

衛平對曰不然臣聞盛不報重寄不歸

宋博士衛平は応(こた)えて曰く、『そうではありません。わたしは聞きます、盛徳(せいとく)にこたえなければ、重寄(大切な仕事をまかされること)は帰属(きぞく)しない、と。

天與不受天奪之寶

天が与(あた)えて、さずからなければ、天はこの宝(たから)を奪(うば)うでしょう。

今龜周流天下還復其所上至蒼天下薄泥涂

今、亀はあまねく天下に流れ、そのところに復(ふく)してめぐれば、上は青天に至り、下は白泥(はくでい 薄(はく)=白(はく)?)に塗(まみ)れます。

還遍九州未嘗愧辱無所稽留

あまねく九州をめぐり、未(いま)だ嘗(かつ)て恥(は)じたことはなく、引きとめて留(とど)められたことは無く、

今至泉陽漁者辱而囚之

今、泉陽に至って、漁者が辱(はずかし)めてこれを囚(とら)えました。

王雖遣之江河必怒務求報仇

王がこれを送ったと雖(いえど)も、江、河は必ず怒(おこ)り、仇(あだ)に報(むく)いることを求め務(つと)めることでしょう。

自以為侵因神與謀淫雨不霽水不可治

自ら、侵(おかすこと)を為すを以って、因(よ)りて神がともに謀(はか)り、長雨がやまず、洪水は治(おさ)めることができず、

若為枯旱風而揚埃蝗蟲暴生百姓失時

もしも旱魃(かんばつ)に為れば、風が吹けば埃(ほこり)を揚(あ)げ、バッタが大発生して、百姓は
収穫時を失うでしょう。

王行仁義其罰必來此無佗故其祟在龜

王が仁、義を行ってもその罰は必ず来るでしょう。ここにその他の故(ゆえ)は無く、その祟(たた)るは亀に在(あ)るのです。

後雖悔之豈有及哉王勿遣也

後でこれを悔(く)やむと雖(いえど)も、どうして追いつくことが有りましょうかな。王は送ることなかれ』と。

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