故曰狂夫之言聖人擇焉
故(ゆえ)に曰く、愚(おろ)かな男の言(げん)でも、聖人はよいものを選び取る、と。
顧恐臣計未必足用願效愚忠
顧(かえり)みて恐(おそ)らくわたしの計(はか)りごとは未(ま)だ必ずしも用いるに足(た)りませんが、願わくは愚か者の誠意(せいい)をつくさせてください。
夫成安君有百戰百勝之計一旦而失之
それ、成安君(代王趙傅陳余)に百戦百勝の計(はか)りごとが有りながら、一朝にしてこれを失(うしな)い、
軍敗鄗下身死泜上今將軍涉西河
趙軍は鄗(地名)の下(もと)で敗(やぶ)れ、身(み)は泜水のほとりで死にました。今回、将軍(漢左丞相韓信大将軍)が西河を渉(わた)り、
虜魏王禽夏說閼與一舉而下井陘
魏王魏豹を虜(とりこ)にして、代宰相夏説を閼与で生け捕りにして、一挙(いっきょ)にして井陘を下(くだ)り、
不終朝破趙二十萬眾誅成安君
朝が終わらないうちに趙の二十万の衆を破(やぶ)り、成安君(代王趙傅陳余)を誅(ちゅう)しましたが、
名聞海內威震天下農夫莫不輟耕釋耒
名声は海内(かいない)に聞こえ、威(い)は天下を震(ふる)わせ、農夫は、すきを棄(す)てて
耕(たがや)すことを軽(かろ)んじないものは無く、
褕衣甘食傾耳以待命者若此
美しい着物を着て、うまいものを食べ、耳(みみ)を傾(かたむ)けて命令を待(ま)つを以ってすることでしょう。このごとくは、
將軍之所長也然而眾勞卒罷其實難用
将軍(漢左丞相韓信大将軍)の有利となる所であります。然(しか)しながら、衆人はほねをおり、歩兵は疲れ、その実(じつ)は用(もち)い難(がた)いです。
今將軍欲舉倦獘之兵頓之燕堅城之下
今、将軍(漢左丞相韓信大将軍)は厭(あ)きて疲(つか)れた兵を挙(あ)げて、燕の堅固(けんこ)な城壁の下(もと)でこれに陣営(じんえい)を張らせようと欲し(頓=屯?)ていますが、
欲戰恐久力不能拔情見勢屈曠日糧竭
戦いを欲しても恐(おそ)らく久(ひさ)しく力を出しても攻め落とすことはできないでしょう。情況は勢(いきお)いのたわまりを見(み)せ、むだに日をすごし、食糧は尽(つ)き、
而弱燕不服齊必距境以自彊也
しこうして、弱い燕が降服(こうふく)しなければ、斉は必ず国境をふせぎ自(みずか)らを強めるを以ってすることでしょう。
燕齊相持而不下則劉項之權未有所分也
燕、斉が相(あい)持ちこたえて下(くだ)らなければ、劉氏、項氏の権勢(けんせい)は未(ま)だ
分(わ)かつところを有(ゆう)さないのです。
若此者將軍所短也
このごとくのものは、将軍(漢左丞相韓信大将軍)の不利となるところです。
故(ゆえ)に曰く、愚(おろ)かな男の言(げん)でも、聖人はよいものを選び取る、と。
顧恐臣計未必足用願效愚忠
顧(かえり)みて恐(おそ)らくわたしの計(はか)りごとは未(ま)だ必ずしも用いるに足(た)りませんが、願わくは愚か者の誠意(せいい)をつくさせてください。
夫成安君有百戰百勝之計一旦而失之
それ、成安君(代王趙傅陳余)に百戦百勝の計(はか)りごとが有りながら、一朝にしてこれを失(うしな)い、
軍敗鄗下身死泜上今將軍涉西河
趙軍は鄗(地名)の下(もと)で敗(やぶ)れ、身(み)は泜水のほとりで死にました。今回、将軍(漢左丞相韓信大将軍)が西河を渉(わた)り、
虜魏王禽夏說閼與一舉而下井陘
魏王魏豹を虜(とりこ)にして、代宰相夏説を閼与で生け捕りにして、一挙(いっきょ)にして井陘を下(くだ)り、
不終朝破趙二十萬眾誅成安君
朝が終わらないうちに趙の二十万の衆を破(やぶ)り、成安君(代王趙傅陳余)を誅(ちゅう)しましたが、
名聞海內威震天下農夫莫不輟耕釋耒
名声は海内(かいない)に聞こえ、威(い)は天下を震(ふる)わせ、農夫は、すきを棄(す)てて
耕(たがや)すことを軽(かろ)んじないものは無く、
褕衣甘食傾耳以待命者若此
美しい着物を着て、うまいものを食べ、耳(みみ)を傾(かたむ)けて命令を待(ま)つを以ってすることでしょう。このごとくは、
將軍之所長也然而眾勞卒罷其實難用
将軍(漢左丞相韓信大将軍)の有利となる所であります。然(しか)しながら、衆人はほねをおり、歩兵は疲れ、その実(じつ)は用(もち)い難(がた)いです。
今將軍欲舉倦獘之兵頓之燕堅城之下
今、将軍(漢左丞相韓信大将軍)は厭(あ)きて疲(つか)れた兵を挙(あ)げて、燕の堅固(けんこ)な城壁の下(もと)でこれに陣営(じんえい)を張らせようと欲し(頓=屯?)ていますが、
欲戰恐久力不能拔情見勢屈曠日糧竭
戦いを欲しても恐(おそ)らく久(ひさ)しく力を出しても攻め落とすことはできないでしょう。情況は勢(いきお)いのたわまりを見(み)せ、むだに日をすごし、食糧は尽(つ)き、
而弱燕不服齊必距境以自彊也
しこうして、弱い燕が降服(こうふく)しなければ、斉は必ず国境をふせぎ自(みずか)らを強めるを以ってすることでしょう。
燕齊相持而不下則劉項之權未有所分也
燕、斉が相(あい)持ちこたえて下(くだ)らなければ、劉氏、項氏の権勢(けんせい)は未(ま)だ
分(わ)かつところを有(ゆう)さないのです。
若此者將軍所短也
このごとくのものは、将軍(漢左丞相韓信大将軍)の不利となるところです。