太史公曰余每讀虞書至於君臣相敕
太史公曰く、「わたしは虞書を読む毎(ごと)に、君臣が相(あい)いましめ、
維是几安而股肱不良
これ、ここにほとんど愚(おろ)か(几=幾? 安=暗?)にして股肱(君主のためにその手足となって仕える家来)は良くなく、
萬事墮壞未嘗不流涕也
万事が墮壞(だかい くずれること)した、に至ると、未(いま)だ嘗(かつ)て涕(なみだ)を流さなかったことはないのである」と。
成王作頌推己懲艾
周成王姫誦が頌(宗廟の祭礼で先祖の徳を讃美する楽歌)を作り、己(おのれ)に治(ち)をいましめることを推(お)しすすめ、
悲彼家難可不謂戰戰恐懼善守善終哉
彼(か)の家難(周家の災難)を悲しんだ。戰戰恐懼(せんせんきょうく)とおそれつつしみ、善(よ)く守り、善(よ)く終えたと謂(い)わないべきかな?
君子不為約則修滿則棄禮佚能思初
君子は、約(つづ)まれば徳を修(おさ)めること、満(み)ちれば礼を棄(す)てること、初めを思うことの能力を失(うしな)うこと、は為さない。
安能惟始沐浴膏澤而歌詠勤苦非大誰能如斯
どうして始めを思い、沐浴(からだや髪を洗い清めること)、膏澤(恩恵)して、勤苦(きんく)を詠(よ)んで歌うことができるだろうか。大徳で非(あら)ざれば誰もこの如(ごと)くはできない。
傳曰治定功成禮樂乃興
伝に曰く、「治(ち)が定まって、功が成(な)り、礼、楽がすなわち盛んになった」と。
海內人道益深其益至所樂者益異
海内の人道は益々(ますます)深まり、その徳は益々(ますます)きわまり、楽(がく)するところのものは益々(ますます)異(こと)なっていった。
滿而不損則溢盈而不持則傾
満ちて減らさなければ溢(あふ)れる、あふれて持たなければ傾(かたむ)く。
凡作樂者所以節樂
凡(およ)そ楽を作るとは、楽を節するを以ってするところで、
君子以謙退為禮以損減為樂樂其如此也
君子は謙退を以って礼をつくり、損減を以って楽をつくるが、楽はこの如(ごと)くなのである。
以為州異國殊情習不同
州、異国が殊(こと)にし、情習が同じではないと為すを以って、
故博采風俗協比聲律
故(ゆえ)に風俗をひろく採(と)って、声律(四声)を調和させ、
以補短移化助流政教
短を補(おぎな)って教化に移すを以って、政教の流れを助けた。
天子躬於明堂臨觀而萬民咸蕩滌邪穢
天子はみずから明堂に於いて観賞に臨(のぞ)み、しこうして、万民はあまねく不正、穢(けが)れを洗いすすぎ、
斟酌飽滿以飾厥性
水や酒をくみかわし、腹一杯に食べ、その性を飾(かざ)るを以ってした。
故云雅頌之音理而民正
故(ゆえ)に云(い)う、雅、頌の音は理(り)にして民が正(ただ)され、
嘄噭之聲興而士奮鄭衛之曲動而心淫
嘄噭(さけぶ)歌声が興(おこ)って、士が奮(ふる)いたち、鄭、衛の曲はゆれて心が淫(みだ)らになった、と。
及其調和諧合鳥獸盡感
その調和諧合(かいごう 調和すること)に及んで、鳥獣がことごとく感動するのであるから、
而況懷五常含好惡自然之勢也
しこうして、況(いわん)や五常(仁、義、礼、知、信)を懐(いだ)くのはなおのことで、好き嫌いを含んで、自然の勢(いきお)いである。
太史公曰く、「わたしは虞書を読む毎(ごと)に、君臣が相(あい)いましめ、
維是几安而股肱不良
これ、ここにほとんど愚(おろ)か(几=幾? 安=暗?)にして股肱(君主のためにその手足となって仕える家来)は良くなく、
萬事墮壞未嘗不流涕也
万事が墮壞(だかい くずれること)した、に至ると、未(いま)だ嘗(かつ)て涕(なみだ)を流さなかったことはないのである」と。
成王作頌推己懲艾
周成王姫誦が頌(宗廟の祭礼で先祖の徳を讃美する楽歌)を作り、己(おのれ)に治(ち)をいましめることを推(お)しすすめ、
悲彼家難可不謂戰戰恐懼善守善終哉
彼(か)の家難(周家の災難)を悲しんだ。戰戰恐懼(せんせんきょうく)とおそれつつしみ、善(よ)く守り、善(よ)く終えたと謂(い)わないべきかな?
君子不為約則修滿則棄禮佚能思初
君子は、約(つづ)まれば徳を修(おさ)めること、満(み)ちれば礼を棄(す)てること、初めを思うことの能力を失(うしな)うこと、は為さない。
安能惟始沐浴膏澤而歌詠勤苦非大誰能如斯
どうして始めを思い、沐浴(からだや髪を洗い清めること)、膏澤(恩恵)して、勤苦(きんく)を詠(よ)んで歌うことができるだろうか。大徳で非(あら)ざれば誰もこの如(ごと)くはできない。
傳曰治定功成禮樂乃興
伝に曰く、「治(ち)が定まって、功が成(な)り、礼、楽がすなわち盛んになった」と。
海內人道益深其益至所樂者益異
海内の人道は益々(ますます)深まり、その徳は益々(ますます)きわまり、楽(がく)するところのものは益々(ますます)異(こと)なっていった。
滿而不損則溢盈而不持則傾
満ちて減らさなければ溢(あふ)れる、あふれて持たなければ傾(かたむ)く。
凡作樂者所以節樂
凡(およ)そ楽を作るとは、楽を節するを以ってするところで、
君子以謙退為禮以損減為樂樂其如此也
君子は謙退を以って礼をつくり、損減を以って楽をつくるが、楽はこの如(ごと)くなのである。
以為州異國殊情習不同
州、異国が殊(こと)にし、情習が同じではないと為すを以って、
故博采風俗協比聲律
故(ゆえ)に風俗をひろく採(と)って、声律(四声)を調和させ、
以補短移化助流政教
短を補(おぎな)って教化に移すを以って、政教の流れを助けた。
天子躬於明堂臨觀而萬民咸蕩滌邪穢
天子はみずから明堂に於いて観賞に臨(のぞ)み、しこうして、万民はあまねく不正、穢(けが)れを洗いすすぎ、
斟酌飽滿以飾厥性
水や酒をくみかわし、腹一杯に食べ、その性を飾(かざ)るを以ってした。
故云雅頌之音理而民正
故(ゆえ)に云(い)う、雅、頌の音は理(り)にして民が正(ただ)され、
嘄噭之聲興而士奮鄭衛之曲動而心淫
嘄噭(さけぶ)歌声が興(おこ)って、士が奮(ふる)いたち、鄭、衛の曲はゆれて心が淫(みだ)らになった、と。
及其調和諧合鳥獸盡感
その調和諧合(かいごう 調和すること)に及んで、鳥獣がことごとく感動するのであるから、
而況懷五常含好惡自然之勢也
しこうして、況(いわん)や五常(仁、義、礼、知、信)を懐(いだ)くのはなおのことで、好き嫌いを含んで、自然の勢(いきお)いである。