武涉已去齊人蒯通知天下權在韓信
武涉はすでに去(さ)り、斉人の蒯通は天下のおもりが斉王韓信に在(あ)ることを知り、
欲為奇策而感動之以相人說韓信曰
奇策(きさく)をつくってこれを心動かせようと欲し、人相(にんそう)を見るを以って斉王韓信を説(と)いた、曰く、
仆嘗受相人之術韓信曰
「わたしはかつて人相見の術を受けました」と。斉王韓信曰く、
先生相人何如對曰
「先生が人相を見るはどのようであるのか?」と。応(こた)えて曰く、
貴賤在於骨法憂喜在於容色
「貴賎(きせん)は骨格に於いて在(あ)り、憂喜は容色(ようしょく)に在(あ)り、
成敗在於決斷以此參之萬不失一
成敗(せいばい)は決断に在(あ)り、この三つを以ってすれば、万に一つもあやまりません」と。
韓信曰善先生相寡人何如
斉王韓信曰く、「よろしい。先生はわたしの人相を見るにどのようであるか?」と。
對曰願少信曰左右去矣
応(こた)えて曰く、「願わくは、少し人目をさけてください」と。斉王韓信曰く、「左右の者は去った」と。
通曰相君之面不過封侯又危不安
蒯通曰く、「君の顔を見るに、侯を封ぜられるに過ぎず、また安定せず危(あや)ういです。
相君之背貴乃不可言韓信曰
君の背骨を見るに、貴(とうと)くてすなわち言葉にできません」と。斉王韓信曰く、
何謂也蒯通曰天下初發難也
「どういうことを謂(い)ったのか」と。蒯通曰く、「天下が災難を発したばかりのとき、
俊雄豪桀建號壹呼天下之士雲合霧集
俊雄、豪桀が号を建(た)ててひとたび呼ぶと、天下の士が雲や霧(きり)のように多く集まり、
魚鱗襍遝熛至風起當此之時
魚の鱗(うろこ)のようにこまかくかさなり、火の粉(こ)が至って風が起こりました。ちょうどこの時、
憂在亡秦而已今楚漢分爭使天下無罪之人肝膽涂地
憂(うれ)いは秦を亡(ほろ)ぼすことに在(あ)ってそれのみでした。今、楚、漢が分かれて争い、天下の罪無き人の肝膽(肝臓と胆嚢)をして地にまみれさせ、
父子暴骸骨於中野不可勝數楚人起彭城
父子は骸骨を野の中に曝(さら)すは、数えきれません。楚人は彭城(楚の都)に起(お)こり、
轉鬬逐北至於滎陽乘利席卷威震天下
転戦(てんせん)して敗走を追いかけ、栄陽に至り、利(り)に乗じて席巻(せっけん)し、威(い)は天下を震(ふる)えさせました。
武涉はすでに去(さ)り、斉人の蒯通は天下のおもりが斉王韓信に在(あ)ることを知り、
欲為奇策而感動之以相人說韓信曰
奇策(きさく)をつくってこれを心動かせようと欲し、人相(にんそう)を見るを以って斉王韓信を説(と)いた、曰く、
仆嘗受相人之術韓信曰
「わたしはかつて人相見の術を受けました」と。斉王韓信曰く、
先生相人何如對曰
「先生が人相を見るはどのようであるのか?」と。応(こた)えて曰く、
貴賤在於骨法憂喜在於容色
「貴賎(きせん)は骨格に於いて在(あ)り、憂喜は容色(ようしょく)に在(あ)り、
成敗在於決斷以此參之萬不失一
成敗(せいばい)は決断に在(あ)り、この三つを以ってすれば、万に一つもあやまりません」と。
韓信曰善先生相寡人何如
斉王韓信曰く、「よろしい。先生はわたしの人相を見るにどのようであるか?」と。
對曰願少信曰左右去矣
応(こた)えて曰く、「願わくは、少し人目をさけてください」と。斉王韓信曰く、「左右の者は去った」と。
通曰相君之面不過封侯又危不安
蒯通曰く、「君の顔を見るに、侯を封ぜられるに過ぎず、また安定せず危(あや)ういです。
相君之背貴乃不可言韓信曰
君の背骨を見るに、貴(とうと)くてすなわち言葉にできません」と。斉王韓信曰く、
何謂也蒯通曰天下初發難也
「どういうことを謂(い)ったのか」と。蒯通曰く、「天下が災難を発したばかりのとき、
俊雄豪桀建號壹呼天下之士雲合霧集
俊雄、豪桀が号を建(た)ててひとたび呼ぶと、天下の士が雲や霧(きり)のように多く集まり、
魚鱗襍遝熛至風起當此之時
魚の鱗(うろこ)のようにこまかくかさなり、火の粉(こ)が至って風が起こりました。ちょうどこの時、
憂在亡秦而已今楚漢分爭使天下無罪之人肝膽涂地
憂(うれ)いは秦を亡(ほろ)ぼすことに在(あ)ってそれのみでした。今、楚、漢が分かれて争い、天下の罪無き人の肝膽(肝臓と胆嚢)をして地にまみれさせ、
父子暴骸骨於中野不可勝數楚人起彭城
父子は骸骨を野の中に曝(さら)すは、数えきれません。楚人は彭城(楚の都)に起(お)こり、
轉鬬逐北至於滎陽乘利席卷威震天下
転戦(てんせん)して敗走を追いかけ、栄陽に至り、利(り)に乗じて席巻(せっけん)し、威(い)は天下を震(ふる)えさせました。