秦之滅大梁也張耳家外黃
秦の大梁(魏の都)を滅(ほろ)ぼしたときは、魏外黄令張耳は外黄に家を構(かま)えていた。
高祖為布衣時嘗數從張耳游
漢高祖(劉邦)が官位がなかった時、たびたび魏外黄令張耳に従って遊説し、
客數月秦滅魏數歲
客すること数ヶ月。秦が魏を滅(ほろ)ぼして数年、
已聞此兩人魏之名士也
すでにこの両人(張耳、陳余)は魏の名士であると聞き、
購求有得張耳千金陳餘五百金
賞金をかけて探し求め、張耳を得る者が有ったら千金、陳余には五百金を懸けた。
張耳陳餘乃變名姓俱之陳
張耳、陳余はそこで姓名を変(か)え、ともに陳(楚の都 寿春の前の都)へ行った。
為里監門以自食兩人相對
(陳の)里の門番(もんばん)と為って自(みずか)ら暮らしを立てた。両人(張耳、陳余)は相(あい)向かいあった。
里吏嘗有過笞陳餘陳餘欲起
里の役人が嘗(かつ)て過(あやま)ちがあって陳余をむち打ったことがあった。陳余は起きあがろうと欲したが、
張耳躡之使受笞
張耳はこれを踏(ふ)みつけて、むちを受けさせた。
吏去張耳乃引陳餘之桑下而數之曰
役人が去ると、張耳はすなわち陳余を引いて桑下にいきてこれをなじった、曰く、
始吾與公言何如今見小辱而欲死一吏乎
「以前、吾(われ)はおぬしとどのような如(ごと)くを言ったか?今、小さな辱(はずかし)めの目にあって、たった一人の役人に死を欲するのか?」と。
陳餘然之秦詔書購求兩人
陳余はその通りだと思った。秦は文書で詔(みことのり)して、賞金を懸けて両人(張耳、陳余)を探し求めた。
兩人亦反用門者以令里中
両人(張耳、陳余)もまた門番にもどって里中(さとじゅう)に令(れい)するを以ってした。
陳涉起蘄至入陳兵數萬
陳涉(陳勝)が蘄(地名)に起(お)こり、陳(楚の都だったところ)に至って入り、兵は数万人。
張耳陳餘上謁陳涉
張耳、陳余は陳涉(陳勝)に謁見(えっけん)を申し出た。
涉及左右生平數聞張耳陳餘賢
陳涉(陳勝)および左右の者は平素(へいそ)たびたび張耳、陳余の賢さを聞いており、
未嘗見見即大喜
未(いま)だ嘗(かつ)て見(まみ)えたことがなく、見(まみ)えてすなわち大いに喜んだ。
陳中豪傑父老乃說陳涉曰
陳(楚の都だったところ)中(ちんじゅう)の豪傑(ごうけつ)、父老(村里のおもだった年寄り)がそこで陳涉に説(と)いた曰く、
將軍身被堅執銳率士卒以誅暴秦
「将軍(陳勝)は身(み)みずから鎧(よろい)を被(かぶ)りきっさきを執(と)って、士卒を率(ひき)い荒々しい秦を誅(ちゅう)するを以ってするは、
復立楚社稷存亡繼絕功宜為王
ふたたび楚の社稷(しゃしょく)を立て、亡(ほろ)びたのを存(ながら)えさせ、後継の絶えるを継(つ)いで、功徳は宜(よろ)しく王と為るべきです。
且夫監臨天下諸將不為王不可
まさにそれ、天下の諸(もろもろ)の将軍に臨(のぞ)んで監督するは、王と為らずは不可であり、
願將軍立為楚王也陳涉問此兩人
願わくは、将軍(陳勝)は立って楚王と為ってください」と。陳涉(陳勝)はこれを両人(張耳、陳余)に問(と)うた。
兩人對曰夫秦為無道破人國家
両人(張耳、陳余)は応(こた)えて曰く、「それ、秦が無道(むどう)を為すは、人の国家を破(やぶ)り、
滅人社稷絕人後世罷百姓之力
人の社稷(しゃしょく)を滅(ほろ)ぼし、人の後継ぎを絶(た)やし、百姓の労役で疲(つか)れさせ、
盡百姓之財將軍瞋目張膽
百姓の財(ざい)を尽(つ)きさせました。将軍(陳勝)は目を怒(いか)らせて気力を張(は)って、
出萬死不顧一生之計為天下除殘也
万死(ばんし)にのぞんで、一生(いっしょう)の計(万死に一生を得る計(はか)りごと)を顧(かえり)みず、天下の為(ため)に悪者を除(のぞ)くのであります。
秦の大梁(魏の都)を滅(ほろ)ぼしたときは、魏外黄令張耳は外黄に家を構(かま)えていた。
高祖為布衣時嘗數從張耳游
漢高祖(劉邦)が官位がなかった時、たびたび魏外黄令張耳に従って遊説し、
客數月秦滅魏數歲
客すること数ヶ月。秦が魏を滅(ほろ)ぼして数年、
已聞此兩人魏之名士也
すでにこの両人(張耳、陳余)は魏の名士であると聞き、
購求有得張耳千金陳餘五百金
賞金をかけて探し求め、張耳を得る者が有ったら千金、陳余には五百金を懸けた。
張耳陳餘乃變名姓俱之陳
張耳、陳余はそこで姓名を変(か)え、ともに陳(楚の都 寿春の前の都)へ行った。
為里監門以自食兩人相對
(陳の)里の門番(もんばん)と為って自(みずか)ら暮らしを立てた。両人(張耳、陳余)は相(あい)向かいあった。
里吏嘗有過笞陳餘陳餘欲起
里の役人が嘗(かつ)て過(あやま)ちがあって陳余をむち打ったことがあった。陳余は起きあがろうと欲したが、
張耳躡之使受笞
張耳はこれを踏(ふ)みつけて、むちを受けさせた。
吏去張耳乃引陳餘之桑下而數之曰
役人が去ると、張耳はすなわち陳余を引いて桑下にいきてこれをなじった、曰く、
始吾與公言何如今見小辱而欲死一吏乎
「以前、吾(われ)はおぬしとどのような如(ごと)くを言ったか?今、小さな辱(はずかし)めの目にあって、たった一人の役人に死を欲するのか?」と。
陳餘然之秦詔書購求兩人
陳余はその通りだと思った。秦は文書で詔(みことのり)して、賞金を懸けて両人(張耳、陳余)を探し求めた。
兩人亦反用門者以令里中
両人(張耳、陳余)もまた門番にもどって里中(さとじゅう)に令(れい)するを以ってした。
陳涉起蘄至入陳兵數萬
陳涉(陳勝)が蘄(地名)に起(お)こり、陳(楚の都だったところ)に至って入り、兵は数万人。
張耳陳餘上謁陳涉
張耳、陳余は陳涉(陳勝)に謁見(えっけん)を申し出た。
涉及左右生平數聞張耳陳餘賢
陳涉(陳勝)および左右の者は平素(へいそ)たびたび張耳、陳余の賢さを聞いており、
未嘗見見即大喜
未(いま)だ嘗(かつ)て見(まみ)えたことがなく、見(まみ)えてすなわち大いに喜んだ。
陳中豪傑父老乃說陳涉曰
陳(楚の都だったところ)中(ちんじゅう)の豪傑(ごうけつ)、父老(村里のおもだった年寄り)がそこで陳涉に説(と)いた曰く、
將軍身被堅執銳率士卒以誅暴秦
「将軍(陳勝)は身(み)みずから鎧(よろい)を被(かぶ)りきっさきを執(と)って、士卒を率(ひき)い荒々しい秦を誅(ちゅう)するを以ってするは、
復立楚社稷存亡繼絕功宜為王
ふたたび楚の社稷(しゃしょく)を立て、亡(ほろ)びたのを存(ながら)えさせ、後継の絶えるを継(つ)いで、功徳は宜(よろ)しく王と為るべきです。
且夫監臨天下諸將不為王不可
まさにそれ、天下の諸(もろもろ)の将軍に臨(のぞ)んで監督するは、王と為らずは不可であり、
願將軍立為楚王也陳涉問此兩人
願わくは、将軍(陳勝)は立って楚王と為ってください」と。陳涉(陳勝)はこれを両人(張耳、陳余)に問(と)うた。
兩人對曰夫秦為無道破人國家
両人(張耳、陳余)は応(こた)えて曰く、「それ、秦が無道(むどう)を為すは、人の国家を破(やぶ)り、
滅人社稷絕人後世罷百姓之力
人の社稷(しゃしょく)を滅(ほろ)ぼし、人の後継ぎを絶(た)やし、百姓の労役で疲(つか)れさせ、
盡百姓之財將軍瞋目張膽
百姓の財(ざい)を尽(つ)きさせました。将軍(陳勝)は目を怒(いか)らせて気力を張(は)って、
出萬死不顧一生之計為天下除殘也
万死(ばんし)にのぞんで、一生(いっしょう)の計(万死に一生を得る計(はか)りごと)を顧(かえり)みず、天下の為(ため)に悪者を除(のぞ)くのであります。