故臣以為足下必漢王之不危己亦誤矣
故(ゆえ)にわたしは足下(斉王韓信)がけっして漢王(劉邦)が己(おのれ)を危(あや)ぶまないとするのは、また誤(あやま)りだと為すを以ってするのです。
大夫種范蠡存亡越霸句踐
越大夫文種、范蠡の越での存亡(そんぼう)は、越王句踐を諸侯の旗頭(はたがしら)にし、
立功成名而身死亡野獸已盡而獵狗亨
功を立て名を成(な)しながら、身(み)は死したり、逃亡したりしました。野獣(やじゅう)はすでに尽(つ)くされて猟犬(りょうけん)は煮(に)られました。
夫以交友言之則不如張耳之與成安君者也
それ、交友(こうゆう)を以ってこれを言えば、張耳の成安君(陳余)とともにするのに及(およ)ばす、
以忠信言之則不過大夫種范蠡之於句踐也
忠信を以ってこれを言えば、越大夫文種、范蠡の越王句踐に於いてするのに越(こ)えないのであります。
此二人者足以觀矣願足下深慮之
この二つの人々とは、かんがみるを以って足(た)るのです。願わくは足下(斉王韓信)はこれを深く慮(おもんばか)りください。
且臣聞勇略震主者身危而功蓋天下者不賞
且(か)つわたしは聞きます、勇気と知恵が主(あるじ)を震(ふる)わせる者は身(み)が危(あや)うく、しこうして功が天下を蓋(おお)う者は賞(しょう)されないと。
臣請言大王功略足下涉西河虜魏王
わたしは大王(斉王韓信)の攻略(こうりゃく)を言うことを請(こ)う。足下(斉王韓信)は西河を渉(わた)り、魏王魏豹を虜(とりこ)にし、
禽夏說引兵下井陘誅成安君徇趙
代宰相夏説をいけどりにし、兵を引いて井陘を下(くだ)り、成安君(代王陳余)を誅(ちゅう)し、趙をしたがえ、
脅燕定齊南摧楚人之兵二十萬東殺龍且
燕を脅(おびや)かし、斉を平定し、南に楚人の兵二十万をくだいて、(濰水の)東に楚将龍且を殺し、
西鄉以報此所謂功無二於天下
西に向って報告を以ってし、これ、所謂(いわゆる)功は天下に於いて二つと無く、
而略不世出者也今足下戴震主之威
そして、計略は不世出(ふせいしゅつ)の者であります。今、足下(斉王韓信)は主(あるじ)を震(ふる)えさせるほどの威(い)を戴(いただ)き、
挾不賞之功歸楚楚人不信
賞されないほどの功をかかえており、楚に帰属すれば、楚人は信用せず、
歸漢漢人震恐足下欲持是安歸乎
漢に帰属すれば、漢人は震(ふる)え恐れるでしょう。足下(斉王韓信)はこれらを持(も)っていづこに帰属しようと欲するのですか。
夫勢在人臣之位而有震主之威名高天下
それ勢(いきお)いは人臣(じんしん)の地位に在(あ)って、主(あるじ)を震(ふる)えさせる威(い)が有り、名は天下に高く、
竊為足下危之韓信謝曰
ひそかに足下(斉王韓信)のためにこれを危(あや)ぶむのです」と。斉王韓信は謝(しゃ)して曰く、
先生且休矣吾將念之
「先生(蒯通)はとりあえずお休みください。吾(われ)はまさにこれを考えんとす」と。
故(ゆえ)にわたしは足下(斉王韓信)がけっして漢王(劉邦)が己(おのれ)を危(あや)ぶまないとするのは、また誤(あやま)りだと為すを以ってするのです。
大夫種范蠡存亡越霸句踐
越大夫文種、范蠡の越での存亡(そんぼう)は、越王句踐を諸侯の旗頭(はたがしら)にし、
立功成名而身死亡野獸已盡而獵狗亨
功を立て名を成(な)しながら、身(み)は死したり、逃亡したりしました。野獣(やじゅう)はすでに尽(つ)くされて猟犬(りょうけん)は煮(に)られました。
夫以交友言之則不如張耳之與成安君者也
それ、交友(こうゆう)を以ってこれを言えば、張耳の成安君(陳余)とともにするのに及(およ)ばす、
以忠信言之則不過大夫種范蠡之於句踐也
忠信を以ってこれを言えば、越大夫文種、范蠡の越王句踐に於いてするのに越(こ)えないのであります。
此二人者足以觀矣願足下深慮之
この二つの人々とは、かんがみるを以って足(た)るのです。願わくは足下(斉王韓信)はこれを深く慮(おもんばか)りください。
且臣聞勇略震主者身危而功蓋天下者不賞
且(か)つわたしは聞きます、勇気と知恵が主(あるじ)を震(ふる)わせる者は身(み)が危(あや)うく、しこうして功が天下を蓋(おお)う者は賞(しょう)されないと。
臣請言大王功略足下涉西河虜魏王
わたしは大王(斉王韓信)の攻略(こうりゃく)を言うことを請(こ)う。足下(斉王韓信)は西河を渉(わた)り、魏王魏豹を虜(とりこ)にし、
禽夏說引兵下井陘誅成安君徇趙
代宰相夏説をいけどりにし、兵を引いて井陘を下(くだ)り、成安君(代王陳余)を誅(ちゅう)し、趙をしたがえ、
脅燕定齊南摧楚人之兵二十萬東殺龍且
燕を脅(おびや)かし、斉を平定し、南に楚人の兵二十万をくだいて、(濰水の)東に楚将龍且を殺し、
西鄉以報此所謂功無二於天下
西に向って報告を以ってし、これ、所謂(いわゆる)功は天下に於いて二つと無く、
而略不世出者也今足下戴震主之威
そして、計略は不世出(ふせいしゅつ)の者であります。今、足下(斉王韓信)は主(あるじ)を震(ふる)えさせるほどの威(い)を戴(いただ)き、
挾不賞之功歸楚楚人不信
賞されないほどの功をかかえており、楚に帰属すれば、楚人は信用せず、
歸漢漢人震恐足下欲持是安歸乎
漢に帰属すれば、漢人は震(ふる)え恐れるでしょう。足下(斉王韓信)はこれらを持(も)っていづこに帰属しようと欲するのですか。
夫勢在人臣之位而有震主之威名高天下
それ勢(いきお)いは人臣(じんしん)の地位に在(あ)って、主(あるじ)を震(ふる)えさせる威(い)が有り、名は天下に高く、
竊為足下危之韓信謝曰
ひそかに足下(斉王韓信)のためにこれを危(あや)ぶむのです」と。斉王韓信は謝(しゃ)して曰く、
先生且休矣吾將念之
「先生(蒯通)はとりあえずお休みください。吾(われ)はまさにこれを考えんとす」と。