武臣等從白馬渡河至諸縣
陳(張楚)将軍武臣らは白馬(地名)より河を渡(わた)り、諸(もろもろ)の県に至(いた)り、
說其豪桀曰秦為亂政虐刑以殘賊天下
その豪傑(ごうけつ)に説(と)いた、曰く、「秦は乱れた政治、残虐な刑罰を為し、天下をいためつけ傷つけるを以ってすること、
數十年矣北有長城之役南有五嶺之戍
数十年や。北に長城の夫役(ふえき)を有(ゆう)し、南に五嶺の国境警備を有(ゆう)し、
外內騷動百姓罷敝頭會箕斂
外も内も騒(さわ)がしく動いて、百姓はひどくつかれきり、頭かずを数(かぞ)えて箕(み)ですくうように多く税を取って、
以供軍費財匱力盡民不聊生
軍費に供(きょう)するを以ってし、財(ざい)はとぼしく力は尽(つ)きて、民(たみ)は生きるをたのしめず、
重之以苛法峻刑使天下父子不相安
重(おも)んずること法をむごくし刑をきびしくするを以ってして、天下の父子をして相(あい)安(やす)んじあえず。
陳王奮臂為天下倡始王楚之地
陳王(陳勝)は腕(かいな)を奮(ふる)って天下の為(ため)に始(はじ)めにとなえ、楚の地で王になり、
方二千里莫不響應家自為怒
二千里四方は饗応(きょうおう)せずはなく、家々は自(おの)ずから怒(いか)りを為し、
人自為鬬各報其怨而攻其讎
人々は自(おの)ずから闘(たたか)いを為し、おのおのはその怨(うら)みに報(むく)いてその仇(あだ)を攻(せ)めようと、
縣殺其令丞郡殺其守尉
県ではその令(官名)、丞(官名)を殺し、郡ではその守(官名)、尉(官名)を殺している。
今已張大楚王陳使吳廣
今、すでに大いなる楚を広げ、陳(かつての楚の都)で王になり、呉広(人名)、
周文將卒百萬西擊秦於此時而不成封侯之業者
周文(人名)をして歩兵百万人を率(ひき)いさせて西へ秦を撃たせようとしているが、このような時に於いてして、封侯(封じられた諸侯)の業を成(な)さずは、
非人豪也諸君試相與計之
人の豪士では非(あら)ざるなり。諸君は相(あい)ともにこれを計(はか)ることを試(こころ)みよ。
夫天下同心而苦秦久矣因天下之力而攻無道之君
それ、天下は心を同じくして秦に苦しむこと久(ひさ)しい。天下の力に因(よ)りて無道(むどう)の君主を攻(せ)め、
報父兄之怨而成割地有土之業此士之一時也
父兄の怨(うら)みに報(むく)いて地を割(さ)き領土を有(ゆう)する業を成(な)すは、これ、士のまたとない良い機会である」と。
豪桀皆然其言乃行收兵得數萬人
豪傑(ごうけつ)は皆(みな)その言(げん)をその通りだと思った。そこで行きながら兵を収(おさ)め、数万人を得(え)て、
號武臣為武信君下趙十城餘皆城守莫肯下
陳(張楚)将軍武臣を号して武信君と為した。趙の十の城邑を下(くだ)し、他(ほか)は皆(みな)城に立てこもって守(まも)り下(くだ)ることをよしとしなかった。
陳(張楚)将軍武臣らは白馬(地名)より河を渡(わた)り、諸(もろもろ)の県に至(いた)り、
說其豪桀曰秦為亂政虐刑以殘賊天下
その豪傑(ごうけつ)に説(と)いた、曰く、「秦は乱れた政治、残虐な刑罰を為し、天下をいためつけ傷つけるを以ってすること、
數十年矣北有長城之役南有五嶺之戍
数十年や。北に長城の夫役(ふえき)を有(ゆう)し、南に五嶺の国境警備を有(ゆう)し、
外內騷動百姓罷敝頭會箕斂
外も内も騒(さわ)がしく動いて、百姓はひどくつかれきり、頭かずを数(かぞ)えて箕(み)ですくうように多く税を取って、
以供軍費財匱力盡民不聊生
軍費に供(きょう)するを以ってし、財(ざい)はとぼしく力は尽(つ)きて、民(たみ)は生きるをたのしめず、
重之以苛法峻刑使天下父子不相安
重(おも)んずること法をむごくし刑をきびしくするを以ってして、天下の父子をして相(あい)安(やす)んじあえず。
陳王奮臂為天下倡始王楚之地
陳王(陳勝)は腕(かいな)を奮(ふる)って天下の為(ため)に始(はじ)めにとなえ、楚の地で王になり、
方二千里莫不響應家自為怒
二千里四方は饗応(きょうおう)せずはなく、家々は自(おの)ずから怒(いか)りを為し、
人自為鬬各報其怨而攻其讎
人々は自(おの)ずから闘(たたか)いを為し、おのおのはその怨(うら)みに報(むく)いてその仇(あだ)を攻(せ)めようと、
縣殺其令丞郡殺其守尉
県ではその令(官名)、丞(官名)を殺し、郡ではその守(官名)、尉(官名)を殺している。
今已張大楚王陳使吳廣
今、すでに大いなる楚を広げ、陳(かつての楚の都)で王になり、呉広(人名)、
周文將卒百萬西擊秦於此時而不成封侯之業者
周文(人名)をして歩兵百万人を率(ひき)いさせて西へ秦を撃たせようとしているが、このような時に於いてして、封侯(封じられた諸侯)の業を成(な)さずは、
非人豪也諸君試相與計之
人の豪士では非(あら)ざるなり。諸君は相(あい)ともにこれを計(はか)ることを試(こころ)みよ。
夫天下同心而苦秦久矣因天下之力而攻無道之君
それ、天下は心を同じくして秦に苦しむこと久(ひさ)しい。天下の力に因(よ)りて無道(むどう)の君主を攻(せ)め、
報父兄之怨而成割地有土之業此士之一時也
父兄の怨(うら)みに報(むく)いて地を割(さ)き領土を有(ゆう)する業を成(な)すは、これ、士のまたとない良い機会である」と。
豪桀皆然其言乃行收兵得數萬人
豪傑(ごうけつ)は皆(みな)その言(げん)をその通りだと思った。そこで行きながら兵を収(おさ)め、数万人を得(え)て、
號武臣為武信君下趙十城餘皆城守莫肯下
陳(張楚)将軍武臣を号して武信君と為した。趙の十の城邑を下(くだ)し、他(ほか)は皆(みな)城に立てこもって守(まも)り下(くだ)ることをよしとしなかった。